こうみ・さくほの橋 巡ってみた

2026.05.31櫻井 麻美

こうみ・さくほの橋 巡ってみた

目を閉じてこうみ・さくほの景色を思い出してみる。連なる山々、透き通った空、日々表情を変える千曲川、そして……そこにかかる橋。人によって、愛着のある橋は違うかもしれないけれど、やっぱり橋はこうみ・さくほの原風景を語る上で外せない。

何を隠そう、こうみ・さくほにはかなりの数の橋がある。佐久穂町には231橋、小海町には97橋※1、長野県全体ではアーチ橋の数が全国1位という多さ※2。

そもそも橋とは川や海、谷など障害物を超えて道を通すための構造物。橋の存在によって交通や流通が拡大し、観光や経済の発展にも貢献してきた。もはや、私たちに欠かせない社会的なインフラ。そう考えると、橋って、すごい。

機能面だけでなく、橋ごとに違った美しさもまた、大きな魅力。実は橋には様々な種類があって、それぞれ構造や力の伝え方、デザインが異なる。周りの環境と合わさった景観も合わせると、どれも唯一無二の存在。世界にひとつだけの橋。うーん、奥深い。

こうみ・さくほには個性的な橋がたくさんある。今回は編集部の独断と偏見で選んだ橋を、熱量高めにご紹介しよう!

※1 佐久穂町は令和6年時点、小海町は令和3年時点、それぞれ町公式HP参照
※2 国土交通省『道路統計年報2024』参照

他の追随を許さない、つよつよ文化財 「栄橋」

DATA

架設1938年
形式ローゼ桁橋
材料鉄筋コンクリート
橋長87m
幅員6m

2002年に「中島武設計のRCローゼ桁橋群」として土木学会の選奨土木遺産に認定、さらに2025年3月には国の登録有形文化財に登録され、町内初の国指定文化財に!

「栄橋」は、道路技師である中島武が長野県に赴任している1930年代に手がけた橋群のひとつ。当時は戦争による資材不足で鋼鉄による橋づくりが難しかったため、コンクリートでの設計施工法を独自に考案したのだそう。

長野県在籍中に全部で7橋手がけたが、現存するのは長野県木曽町の「大手橋」、小谷村の「親沢橋」と「姫川橋」、坂城町の「昭和橋」、佐久穂町の「栄橋」の5橋だけ。栄橋はその中でもアーチ部の支間長※が最長の45.05mだ。

コンクリートの滑らかな白い曲線は、なんとも優美。南側から眺めれば、浅間山の稜線とも見事に調和していて、ため息が出る。全体のバランスだけでなく、近くで細部も観察してみよう。無機質な素材だからこそ生まれる均質な表面は、思わず触れてしまいたくなるほど。すべすべとしたその質感に、思い出したのはヴィーナス像。この柔らかい線が、いいんです。

輪郭を強調するように中央を窪ませたアーチの意匠は、兄弟橋である坂城町の9連アーチ「昭和橋」にも共通して見られる部分。シンプルながらもさりげない装飾も、乙なもの。さらには各岸に立つ石張尖頭型の橋灯付き親柱4本が、橋を渡るわくわく感を高めてくれる。春には橋のたもとに枝垂れ桜が咲きほこり、コラボレーションもまた見事。

長野県固有のコンクリート・ローゼ桁橋のある景観を見ると、100年ほど前のエンジニアが試行錯誤しながらも橋づくりに情熱を注いだ物語が自然と頭に浮かぶ。中島さん、この橋を産んでくれて、ありがとう!(涙)

※橋台や橋脚に設置された上部構造の重さを支える支承間の長さ

心やさしきミニマリスト 「栄海(よしみ)橋」

DATA

架設1988年
形式斜張橋
材料PC
橋長90m
幅員3.5m

なんといっても最大の魅力は、橋そのものの美しさ。まずは離れたところから「栄海橋」を眺めよう。橋の中央部を貫く、空に向かって垂直に伸びる柱。さらにそこから斜めに伸びていく細い線。その印象は、一言で、美! 余分なものを削ぎ落としたデザインは、ミニマリストのような佇まい。飾り付けていないのに勝手に滲み出てしまうおしゃれさが、にくいやつ。

そんな造形美をより際立たせているのが、等間隔に置かれたシンプルなデザインの街路灯。柔らかな白い球状のカバーのライトがリズムを生み出すことで、直線的な橋のアクセントになっている。シンメトリーな配置も心地よい。夜、光が灯った時にぼんやり照らされた姿も幻想的で、デートスポットにもぴったり? でも周りの道路からは丸見えなので、どうぞゆめゆめお忘れなく!

それにしても、全体の合理的かつ洗練された印象は、モダニズム建築を思わせる雰囲気。近づいて真横から眺めるのも楽しい。中央の柱・斜めの線・街路灯の全てが一直線上に重なると、あら、意外とコンパクト。印象がまるで変わるのがおもしろい。地域の人々が手入れしている花壇のある石張りベンチに腰掛ければ、なんだか心もぽかぽかに。見た目はクールだけど、実は人情味がある。「栄海橋」は、今日もやさしい。

哲学的な問いを投げかける石 「杭の内橋」

DATA

架設データなし
形式床版橋
材料
橋長2m
幅員1.4m

小海線海瀬駅から歩いて5分ほど、本当にここに橋が? と疑いながらも畑の脇道を行った先に、それはある。用水を跨ぐようにかけられた、平らな石。誰かが適当に置いたように見えなくもないが、これも実は“橋”なのだ。その名も、「杭の内橋」。

この石……、いや、橋を見ていると、めくるめく色々な思考が頭を飛び交ってくる。これが、橋。確かに、岸と岸を結んでいるけれど。同じく近くにかけられた用水を跨ぐ鉄製のはしごは、橋ではないの? どこからどこまでが、橋? 橋の定義とは? えっ、えっ?

そう、ただの石と侮るなかれ。「杭の内橋」は私たちの心の奥底に、“橋とはなにか”という哲学的な問いを投げかけてくる。うーん、深い。ちなみに石橋を渡った先には、墓地がある。それもまた意味があるのだろうかと、深読みしてしまうのだった。

少年少女の心で探検したい 「千曲橋」

DATA

架設1994年
形式桁橋
材料
橋長91m
幅員1.5m

細道が、好きだ。だから必然的に、歩行者しか通れないような細い橋も、好きだ。「千曲橋」は、千曲川沿いにある町民憩いの場、「愛宕公園」のほど近くにある。横から見るとわからないが、いざ近くまで行くと、とっても細い。公園側の岸から先を見ると、左右の水色にペイントされた柵が、柔らかい弧を描いている。しかし、ここから終着点を見ることはできない。それもそのはず、幅は狭いが90m以上続く橋。向こうに何があるんだろう、という無邪気な探検心がむくむく沸き起こる。

ちなみに入り口は、アーチ型の柵がしっかりガード。車は侵入できません、という強いメッセージ。その横をすり抜けて、歩き出そう。のんびりお散歩すれば、段々と向こう岸も見えてきて、左右の景色が変わるのも楽しめる。ああ、こういう時間って、大切。渡り切る頃には、心も少し軽やかに。

ウッディーな癒し系 「佐山橋」

DATA

架設1979年
形式桁橋
材料
橋長30.1m
幅員3m

佐久穂町唯一、30m以上の木の橋「佐山橋」は、佐久穂町の清掃センターの手前にかけられている。その姿を一目見て出てきた言葉は、“めっちゃウッディー”。それは、橋そのものだけでなく、周りの環境のせいかもしれない。背景には清掃センター以外の建物は見えず、だいたい山。そして橋の両岸には、整然と並んだ木。木々の間から橋を眺めてみれば、周りの景観との調和が半端なく、見れば見るほどそれぞれの境界線が曖昧になっていく。素晴らしい馴染みっぷりだ。

橋のデザインとしては直線的ではあるものの、木橋ならではの柔和な表情。素材が違うだけで、こんなに見た目は変わるのか。橋脚が丸みを帯びたラインで作られているのも特徴的で、そのかわいらしさをさらに引き立てている。全体的に、ほっこり。たもとでピクニックするのも楽しそう。そんな癒しの橋。

実はみんな気になってる 「宮下水管橋」

DATA

架設不明
形式水管橋
材料鋼管
橋長70m
幅員0.5m

気にはなっているけれど、わざわざ人に聞くほどではない。そういうものって世の中に山ほどあるけれど、そのひとつがこの謎の橋。国道141号を走っていると、危うげな細い橋が対岸へ続いているのが見える。あれって、渡れるの? どっから通るの? 疑問は浮かぶものの、家に着く頃には忘れている。だからついぞ、誰にも聞けたことがない。

遠くからしか見えないから、人が渡れそうな雰囲気だけれど……それにしてはちょっとスリリング? 実はこれは「水管橋」と呼ばれるもの、つまり、農業用水が通るパイプを川から川へと橋渡ししたものだ。残念ながら人が渡るためのものではない。正体が分かったとて、何やら気になる存在に変わりはない。橋の近くの国道には少し広くなった駐車スペースがあるので、そこから一度じっくりご覧あれ。

レトロですがなにか? 「相木川橋梁」

DATA

架設1918年
形式デックガーダー3連(上部工の桁形式名称は「明治42年式特式・大正8年式特式」)
材料鋼(下部工 切石積み)
橋長38.5m
幅員1.2m(主桁中心間隔)

我らが誇る、小海線。その線路は、たくさんの橋によって支えられている。この「相木川橋梁」もそんな橋のひとつ。すぐ隣に道路が並行して走っているので、何気なく見ている人も多いかもしれないけれど、それだけじゃもったいない! ぜひとも裏に回って細部までじっくり鑑賞してほしい。

まず、特筆すべきは橋脚の切石積みひとつひとつの表情。自然の素材を使用しているからこその、凹凸の陰影のコントラスト、またそれらが経年変化によってそれぞれ違う風合いを出しているのが、なんともレトロ。そんな不規則な表面と対照的に、角がピシッと揃っているのも小気味よい。周りの緑との相性もよく、ちょっとした古代遺跡を思わせる。あれ、ピラミッドかな? それとも城塞都市?

橋脚に掲げられた水位を測るメジャーもアクセント。白と黒のしましま模様が、地図上の線路みたいでかわいい。よーく見ると、5と6の間の目盛りに“運転中止”と書かれた赤いテープが……川の水がここまで高くなると、さすがにお手上げか。実用性もしっかり備えている模様。

先へ続く線路に想いを馳せると、小海線を支え続けていくことの重責を、ひしひしと感じてしまう。郷愁漂う「相木川橋梁」、その姿がこれからも続いていきますように。

青春の酸いも甘いも、この橋と共に 「清流ふれあい橋」

DATA

架設2005年
形式パイプアーチ橋
材料
橋長62.2m
幅員5m

小海町にとっての一大イベントは、なんといっても“ぎおん祭”! クライマックスとなる打ち上げ花火の王道鑑賞スポットが、この「清流ふれあい橋」だ。時間になるとあれよあれよと人が集まり、あたりは人、人、人。ビアガーデンの舞台にもなるなど、とにかくイベント盛りだくさん。そんな熱気あふれる夏の姿がとっても似合う橋は、学校も近く若者の姿もよく見かける。ここは、青春の思い出の舞台。いつか町で過ごしたことを振り返るときには、この橋が頭に浮かぶのか……と、勝手ながら想像する。みんなが知っていて、みんなに愛される橋、それがこの橋の1番の魅力だ。

さて、少し離れたところから橋を見よう。伸びやかなアーチと、そこから落ちる直線。柱の丸みを帯びたデザインが、優しく橋全体を包み込む。白いアーチ部分と橋桁の赤褐色の色使いも◎ 少し視線を動かすと、背後にある建物上部には、「ようこそ 小海町」という控えめな文字が。これは、観光客へのメッセージ。なるほど。つまり、この橋は町の中心でもあり、入り口でもあるのだ。

中ほどに置かれたベンチに座り、千曲川を眺める。なぜだろう、すごく落ち着く。川の流れる音に、少し声を大きめにして話さなければならないけれど、それもまた人との距離を縮めてくれるきっかけになるのかも。

ポッポみある青が映える「第七千曲川橋梁」

DATA

架設1932年
形式デックガーダー5連(上部工の桁形式名称は「デハ219、231、222」)
材料
橋長113m
幅員1.8m(主桁中心間隔)

熱狂的な鉄道好きでなくても、高いところにかけられた橋とその上を通る小海線を見ると、ついつい写真を撮りたくなる。「第七千曲川橋梁」もまた、そんな映えスポットのひとつだ。国道141号からも見ることができるが、脇に逸れた道にある鑑賞スポットから見るのがおすすめ。近くには駐車場が設けられ、“小海線とふるさとを愛する会”が管理してくれている。

まずこの橋の大きなチャームポイントは、その色。爽やかな水色は、抜けるような信州の青空を彷彿とさせる。慣れ親しんだ景色にも、妙にしっくりくる。うーん、それにしてもなんだか見覚えがあるような……あ、ポッポ牛乳のパッケージの、あの水色! この妙な親近感は、毎日見ている色だから?

橋桁に書かれた“八ヶ岳高原ライン”という文字もよい。生活しているとつい忘れてしまうけれど、そうだそうだ、小海線は高原を走る鉄道だった、と改めてその魅力を思い出す。その時、大きな音とともに、列車がやってきた。ガタンゴトンと線路を通り過ぎる姿をこんなに近くに、なおかつ下から見上げるアングルは、大迫力そのもの。もはや、一種のアトラクション。本当にタダでいいの? 鉄道ファン以外にも力強くおすすめしたい、橋鑑賞。遠景と合わせて、ああ、ずっと眺めていたい。誰か、ジオラマを作ってくれませんか?

1トン以上はお断り パンクなとげとげ「芦平橋」

DATA

架設1987年
形式吊り橋
材料
橋長63m
幅員2.6m

吊り橋、有刺鉄線、木の床、というどきどきしちゃう個性3つが揃い踏み。尚且つ入り口の看板には”1トンを超える車両は通れません”と書いてある。覚悟のあるやつだけがここに来な、と言われているような、そこはかとないパンクな精神を感じる「芦平橋」。勇気を出して一歩踏み出し近づこうとしたその時、颯爽と車が通り抜けていった。なるほど、軽トラはセーフのようだ。

まず、吊り橋、というのが特筆すべき点。吊っているので、やっぱり揺れる。ゆっくり歩いて通るだけでも、揺れる。気持ちも、揺れる。心拍数も、揺れる。正直、ちょっと不安。でも揺れるからといって手すりをつかもうとするなかれ。欄干部分はかなり低めで、その上にはなぜか有刺鉄線が這わせてある。落っこちることのないように、端に寄せ付けないための親切設計なのか。しかし、うっかり手を出すと、怪我をする。ぞくぞくするほど、パンクだ。覚悟を決めて、堂々と真ん中を渡ろう。

怖いもの見たさで下を覗き込んでみる。なかなかの高さに足がすくみそう。川底に吸い込まれていきそうだ。危ないので、あまり顔を出しすぎないように気をつけて。くじけて途中で引き返そうかとも思ったが、なんとか向こう岸に着いた時には、とてつもない達成感。あれ、なんか。ちょっと、癖になりそうだ。

まとめ

めくるめく橋の世界に一度足を踏み入れれば、きっとあなたも橋の魅力の虜になるはず。ここで紹介できたのは、ほんの一部分。まだまだ語り尽くせない。だって、両町合わせて328もの橋があるのだから。

知らず知らずのうちに、今日もきっと、あなたは橋を見ている。なんなら、気付かぬうちに橋を渡っている。思い出の片隅にも、もしかしたら……

こうみ・さくほの個性あふれる橋の歴史、デザイン、景観などの魅力は無限大。ぜひ町を巡りながら、お気に入りの橋を見つけてみて。

※橋に関するデータは全て佐久穂町役場、小海町役場、JR東日本より提供